安定志向に捕らわれず
お客さまの期待に応え続ける

2020年の東京オリンピックを数年後に控え、首都圏各地では現在インバウンド推進に向けた都市開発が進められています。渋谷を始めとする東急線沿線地域もまさにその最中にあり、私たち東急バス・東急トランセ両社も、都市の発展にキャッチアップしたサービスを提供するため常に進化し続けなければなりません。

鉄道やバスなどの公共交通事業は、特に都心部には安定的な事業基盤があり、短期的に見れば会社が逼迫してしまう心配をする必要はありません。しかし、だからこそ社員に「安定志向」が生まれてしまいかねない側面もあります。

私たちが提供する公共交通サービスの特徴の一つは、「お客さまは自分が利用する会社を選べない」ということです。自分の住む地区に複数のバス会社の路線があるとは限りませんし、目的地によって必然的に利用する会社が限定されていくこともあるでしょう。つまり、私たちが複数あるバス会社の中から選ばれてご利用いただいていると思うことは、「自惚れ」に過ぎません。

しかし、「安全」「安心」という基本を遵守し、さらに「快適」といった付加価値をも突き詰めていくことができれば、お客さまは必ず私たちを「一番のバス会社」と認めてくださると思っています。そして、そのご期待に応え続けるために、私たちは決して歩みを止める訳にはいきません。「安定志向」に捕らわれている場合ではないのです。

社員に求めるのはオープンマインド
「自分に関係ない仕事」は存在しない

1975年に東京急行電鉄に入社した私は、管理業務や「草の根を分ける」ような泥臭い営業など、さまざまな業務を体験しました。東急電鉄が未だ石油販売事業を行っていた頃は営業課長を任され、そこでの業務を通して「東急」というグループがどれだけ多くの人々と関わって仕事をしているのかを知りました。

そして齢55歳の頃、生活の場としても働く場としても慣れ親しんだ首都圏を離れ、北海道に渡りました。ニッポンレンタカー北海道株式会社や札幌東急リフォーム株式会社など、この北の地に存在する東急グループ各社の取締役を勤めましたが、中でも、東急グループのもう一つのバス会社である株式会社じょうてつでの体験は、非常に得がたいものでした。

私が社長を任された当時のじょうてつは、これまで脈々と受け継がれてきた会社のやり方を守りながら仕事をするといった、実直な反面、非常に保守的な会社でした。また、交通事業や不動産事業など、各事業には組織の「縦割り」意識が強く、必ずしも社内の風通しが良いとは言えない状態もありました。

しかし、社員と触れ合う中で、他人を思いやったり配慮をしたりといった、地方都市独特の人柄の良さや温かさを肌で感じていたのも事実です。その特徴が、「縦割り」の仕組みの中では充分に発揮されていないことが、最も大きな課題であることに気がつきました。「これは自分の仕事」「これは誰かの仕事」と壁を作らず、社員一人ひとりがもっとオープンマインドに仕事に関わっていくことができれば、会社全体に良きシナジーが生まれるのではないか。そう考えた私は、「縦割り」のセクショナリズムを壊すため、会社全体の意識改革に乗り出しました。

「会社の意識を改革する」と一言で言ってしまえば聞こえは良いかもしれませんが、それはいわゆるトップダウン式に行おうとしても実現するものではありません。私自身、バスや不動産など自分たちの商材を最前線で学ぶべく、先頭に立ってさまざまな現場に足を運ぶよう努めました。すると社員がその姿を見ていてくれたお陰か、次第にセクションの垣根を越えて連携するようになり、徐々に会社が活性化し始めたのです。

実を言うと、積極的に現場に出て行くようになり、私自身も一層明るくなったような気がします。「社長」や「部長」「課長」あるいは「担当」など、肩書きに捕らわれず人間として信頼してもらえる行動を取る。ひいては、それが信頼される会社となるための大きな原動力なのではないでしょうか。

東急バスと東急トランセは
同じ使命を抱いて走る「両輪」

東急バスと東急トランセは、それぞれ別個に存在している会社です。しかし、営業所ではともに仕事をしていますし、「東急バスだから」「東急トランセだから」という隔てがなく、安全にお客さまをバスにお乗せするという使命の下、一体となっていると感じます。

時代を遡ってみれば、バス会社というものの原点は「ハンドル一本で生きていく職人の世界」でした。乗務員たちは接遇に対する意識が充分でなく、私が幼い頃はバスの乗務員は怖い人だとすら思っていたほどです。

誤解を恐れずに言えば、以前の東急バスには、そんな旧時代的な一面が残っていました。しかし、7年の北海道勤務を終えて東京に戻ってきた私を迎えてくれた東急バスは、そんなかつての面影はなくなり、サービス面も非常に洗練された会社となっていました。バス事業を「サービス業」として突き詰めていく東急トランセとのシナジーを感じた瞬間です。

両社が両輪として同じ方向を目指し続けていけば、今後もより一層相乗効果を発揮することができるはずです。

二子玉川や武蔵小杉の変貌に例を見るように、近年の東急線沿線の発展は目覚ましいものがあります。都市の発展に伴い、人の流れや経済の流れも変わっていきますが、広くアンテナを張り、時流を読む力を付けていかなければなりません。これまで培ってきた知見はもちろん大切ですが、それのみを頼りにし、机上の空論ですべてを判断することは懸命とは言えません。

「実践あるのみ」の精神で常に新しいサービスを模索し、東急線沿線の街から新たな公共交通の形を提案できる会社となることを目指していきたいと考えています。

東急バス株式会社 取締役社長

山口 哲生TETSUO YAMAGUCHI

政治経済学部政治学科卒。千葉県に生まれ、以降、東京では東急線、関西では阪急線に憧れ、すっかり「鉄道マニア」になり、愛読書には「JTB 時刻表」を挙げるほど。就職活動では、「交通事業に携わりたい」という強い意志をもって活動していた。1975年、東京急行電鉄に入社後、東急バスを含めたグループ各社の取締役を歴任。2015年4月より、東急バス・東急トランセの取締役社長に就任。